Photoshopを作ったのは大学生!?
Photoshop は今や写真加工には欠かせんな!
まあそれはともかく、Photoshop を作ったのは誰か知っておるか?
今日はPhotoshopの開発ストーリーを深堀してみるかの
カメラ好きの少年がPhotoshopを作るまで
写真を自由に加工できる夢のソフト
写真の色を調整したり、写っているものを消したり、増やしたり。
写真を自由自在に加工できるソフト「Photoshop」が発売されたのは1990年のことです。
当時はまだ、デジカメも普及しておらず、スキャナやカラープリンタも高価な時代でした。
しかし、この画期的なソフトは出版の世界に革命をもたらし、やがて一般の人々の間にも普及していきました。
DTPソフトの雄、Adobeの代表的なソフトの一つであるPhotoshopは、当時、大学生だったトーマス・ノールが弟のジョン・ノールとともに作り上げたものです。
果たしてそこにはどんなドラマがあったのでしょうか?
トーマス・ノールの幼少期
Photoshop の開発者である「トーマス・ノール」は1960年、ミシガン州アナーバーで生まれました。
父親はカメラが趣味で、家の庭には暗室がありました。
11歳のクリスマスにカメラを買ってもらい、二つ年下の弟ジョンと共に撮影と現像に熱中します。
また、父親は新しいテクノロジーに触れさせようと、AppleIIを購入しました。
アナログ写真とコンピュータ。
やがて Photoshop に結実する二つのものにどっぷりつかった10代を過ごします。
そして、もう一つ重要なものと出会います。
1977年に公開された映画「スター・ウォーズ」です。
これらがやがて画期的なソフトに結実することになるのです…
私はスマホ世代であまり写真をみたことないけど…
普通は写真屋さんで現像してもらってたんじゃがな
写真現像も思い通りの写真に仕上げるのに様々なテクニックがあるから、この時の経験がのちの「Photoshop」に活かされておるんじゃよ
大学でコンピュータサイエンスを専攻
地元のミシガン大学へ進学したトーマス。
大学では「Computer Vision(コンピュータ・ビジョン)」と呼ばれる研究分野に取り組みます。
「Computer Graphics(コンピュータ・グラフィックス)」は単純に、人工的に作り出した画像をディスプレイに投影する技術です。
それに対し「Computer Vision」はコンピュータを使った視覚の実現です。
つまり、そこに映っているのが背景なのか、人物なのか、コンピュータに理解させる事を目的としています。
現代ではスマホのカメラでも顔認識機能がついていますが、それもコンピュータが「これは顔である」と理解できていなければ実現できません。
この分野の研究は1960年代に人工衛星の画像の改善やCT画像の分析などの技術として始まりました。
トーマスが学生時代の1980年代はまだまだ発展途上の研究分野でした。
論文が書けない!
トーマスが博士課程の論文を書いていた時の事です。
彼は文章を書くのがとても苦手でまったくはかどりません。
そこで大好きなプログラミングに逃避していました。
コードを書くのは文章を書くのとはまったく違い、とても楽しかったと言います。
博士論文のテーマは「輪郭抽出」に関するものでした。
当時研究していた画像認識において一番難しかったポイントが「重なって写ったもの」「隠れているもの」といった個別の被写体の認識。
後のPhotoshopにつながる重要なテーマですが、コードは書けども論文は進まずといった状態でした。
そこへ、弟のジョンがやってきます。
ジョンとの共同開発
「スターウォーズ」に魅了され、映画の世界に身を投じた弟のジョンは、ジョージ・ルーカスが設立したSFX工房、ILM(インダストリアル・ライト&マジック)で働いていました。
トーマス同様カメラ好きだった彼が担当していた仕事は模型撮影のオペレーターです。
しかし、ビジュアルエフェクトの未来はCGにあると予見していたジョンは、自分でもレンダリングのアルゴリズムを研究していました。
しかし、レンダリングした画像をどうやって Mac の画面に出力すればいいのかがわかりません。
兄のトーマスに相談に行ったところ、開発中の画像処理ソフトを見せられました。
「このツールには将来性がある」と考えたジョンは、自分の要望を兄に伝え、トーマスはそれにこたえて、さまざまな改良を加えていきました。
早速、映画制作に活用
ジョンは制作中のソフトを早速、映画制作の現場で使い始めます。
当時担当していたのはジェームズ・キャメロン監督の海洋冒険ロマン「アビス」です。
この映画に登場する水のクリーチャー「ウォータースネーク」のCGに、まだバージョン1.0にも満たないPhotoshopが使われています。
このクリーチャーは水でできているので、あらゆるものを環境光で反射します。
周囲のものを写り込ませるために、スチルカメラで周囲を撮影して、それをひとつひとつPhotoshopで合成してつなぎ合わせるという作業をマニュアルで行いました。
映画は1989年に公開され大ヒットを記録。
これに手ごたえを感じたキャメロン監督は「ターミネーター2」の制作を開始し、あの液体金属の「T-1000」が生み出されることとなります。
映像制作にもコンピュータが使われはじめたのがこの頃じゃ
当時の特殊撮影をあらわす言葉で、語源は諸説あるが「special effects(特殊効果)」を縮めた和製英語と言われておる
その先鞭を付けたのが「スター・ウォーズ」じゃな!
Adobeから世界にデビュー
こうしてPhotoshopの初期バージョンであるソフト「Display」が完成します。
ジョンが「これは売れるよ!」と興奮気味に断言しました。
実際、すでに映画制作の現場で実績を出しています。
2人は早速「ノールズソフトウェア」という会社を立ち上げ、売り込みに奔走します。
ジョン・ワーノックに認められる
Photoshopの初期バージョンを持って、二人でドライブをしながら、カリフォルニアのコンピュータ会社に見せて回りました。
最初は、アップルに紹介されたSuperMac社というディスプレーメーカーが興味を持ちましたが、会社自体が他社に買収され話は頓挫。
次に「Seyboldカンファレンス」というDTPの見本市に行き、ブースを回りました。
そこに出展していたのが「Adobe Systems」です。
ブース担当者と名刺交換をして、とんとん拍子で、当時の社長だった「ジョン・ワーノック」にプレゼンをする機会を与えられます。
Adobeの共同創業者で「PostScript」の開発者、ジョン・ワーノックは、すぐにこのソフトの価値を見抜きます。
1988年9月にアドビがライセンスと販売権の取得を決定し、1990年に「Photoshop 1.0」として発売されました。
当時は高価だったPhotoshop
発売当初の Photoshop 1.0 は「カラー補正」「トーンカーブ」「レベル補正」「スタンプツール」などの機能があり、レイヤーはまだありません。
まだ初歩的なソフトでしたが、トーマスの「輪郭検出」の技術に加え、「白はより白く、黒はより黒く」といった写真の現像で培った知識が活かされていました。
後に「Photoshop」という言葉自体が写真加工の代名詞となりますが、当時はまだ気軽に使える物ではありませんでした。
なにしろ、Photoshopのソフト自体が795ドルもしたうえ、画像を取り込むためのスキャナが7000ドル、Mac本体が5000ドル、4色分解の印刷機で1枚出力するのに1000ドルもかかる時代でした。
最初はDTPの印刷工程で使われる業務用のソフトといった感じでした。
1990年の為替レートが1ドル145円くらいだから、795ドルで11万5000円!
しかし、7~8年も使えば10万円超えるぞ!
デジタルカメラの普及とともに一般化
1990年代はデジタルカメラの普及期でした。
初期のデジカメは高価で、画質も低かったものの、1995年3月、カシオが世界で初めて液晶画面を搭載したデジカメ「QV-10」を発売し、一般に普及していきます。
2000年代に入るとカメラも安くなり、完全にアナログカメラにとって変わります。
これに並行してPhotoshopもバージョンアップを重ね、フォトグラファーやデザイナーの必須ソフトとなり、さらに一般に普及していったのです。
進化を続けるPhotoshop
1991年、「ペンツール」や「パス機能」を備えた「Photoshop 2.0」が登場。
1993年には、「フローティングパレット」や「クイックマスク」に対応した「Photoshop2.5」が発売され、Windows版もリリースされます。
1994年の「Photoshop 3.0」ではアニメのセルから着想を得た「レイヤー機能」が追加され、さらに使い勝手が良くなりました。
こうして Photoshop はアドビの花形ソフトとしての地位を確立していきました。
トーマス自身も愛用者
トーマスはその後もRaw現像用プラグイン「Camera Raw」や、写真に特化した編集管理ソフト「Lightroom」の開発も手がけ、Photoshopの進化に貢献し続けています。
子供の頃からアナログカメラの愛用者でしたが2002年に初めてデジカメを買い、自ら写真を撮って開発に活かしているといいます。
世界各地で撮影してきた写真の数々をPhotoshopで加工し、自身のウェブサイトで公開しています。
その中には日本で撮影された写真も含まれています。
ジョンは映画業界で大成功
弟のジョンはその後も「スター・ウォーズ」の新三部作をはじめ、多くの作品に視覚効果スーパーバイザーとして参加しています。
2006年の「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」では、アカデミー賞の視覚効果賞を受賞。
2016年の「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」では、原案と製作総指揮を務めています。
VFXの第一人者として、現場で長く活躍しました。
さいごに
「photoshop」は本来、文字通り「写真屋さん」を意味する言葉でした。
しかし、デジカメと「Photoshop」の普及は、街から写真屋さんを消してしまいました。
その一方で「Photoshop」は動詞となり、使用ツールとは無関係に「写真を加工する」という意味の英語としても使われています。
「Photoshopする」は被写体の本当の姿をごまかすというニュアンスがあるため、Adobeはこの動詞の使い方を推奨していないそうです。
加工しすぎて現実ばなれした写真もネットで見かける時代となりました。
報道写真などに使われ、フェイクニュースに利用されていると批判する人もいます。
「Photoshopがこんな使われ方をすると思っていましたか?」という質問に対し、トーマス・ノールはこう答えています。
紙とインクの製造会社に、『ユーザーが書いたり描いたりする全てのことを想像できていましたか?』と聞くようなものだね
どんな道具も使い方ひとつ。くれぐれも悪用は厳禁で。
あ、Photoshopでお札を複製すればいいんじゃ…