日本発TRON(トロン)って何!?
TRONの夢「どこでもコンピュータ」
TRONプロジェクトとは
TRONプロジェクトは1983年頃、坂村健教授(当時は東京大学助手)が提唱し、開始された日本独自のOS開発プロジェクトです。
TRONとは「The Real-Time Operating System Nucleus」の略です。
日本語でいうと「リアルタイム(実時間)で機器を作動させるOSの中心部分」という意味です。
TRONプロジェクトの出発点
坂村教授は、電球から人工衛星まであらゆるモノにコンピュータが入り込み、ネットワークでつながると予想しました。
それぞれの機器に組み込まれたコンピュータの動きを統一するために、OSを標準化させるというビジョンを提示しました。
それがTRONプロジェクトの出発点となったのです。
このような考えは、現在では「ユビキタス」と呼ばれています。
また、その仕組みは「IoT」(Internet of Things:モノのインターネット)と呼ばれて注目されています。
TRONのサブプロジェクト
I-TRON(アイトロン) | 家電機器や産業ロボットなど、あらゆる機械で使用する組込み用OS。 |
B-TRON(ビートロン) | ビジネス・事務処理向け、現在で言うパソコン用のOS。 |
C-TRON(シートロン) | メインフレーム(今でいうとサーバ)用OS。通信ネットワークのセンターの役割を担う。 |
M-TRON(エムトロン) | 上記の全体を調整するOS。今でいうところの分散コンピュータに相当する。 |
トロン電子機器HMI研究会 | TRONにおける操作性をデザインする。 |
トロンチップ | TRON構想を実現するためのハードウェアを策定する。 |
B-TRON:パソコンOSとしてのTRON
B-TRONは、「Business TRON」の略です。
今でいうところのパソコン向けのOSで、事務処理などに使われることを想定したものです。
1985年に坂村教授と松下電器産業(現、パナソニック)の主導でB-TRONの開発がスタートしました。
先進的なOS
B-TRONは、当時としてはかなり先進的なOSでした。
例えば、当時のOSの多くが文字でコマンドを入力する方式でした。
それに対して、B-TRONはマウスを使ってアイコンをクリックしソフトを起動する、今のパソコンと同じ方式を実現していました。
学校教育へのコンピュータ導入
B-TRONの開発と同時期に、学校教育へのコンピュータ導入が検討されていました。
1986年、旧通産省、旧文部省の関連団体CEC(財団法人コンピュータ教育開発センター)は、日本の学校教育用標準OSとしてB-TRONの導入を検討しました。
このニュースは大きく取り上げられ、多くのパソコン・メーカーが次々に参入しました。
困難を乗り越え…
そんな中で、あまり乗り気でなかったのがNECでした。
マイクロソフトのOS「MS-DOS」を使ったパソコン「PC98」シリーズで、すでに成功を収めていたからです。
NECは、教育用パソコンの標準化自体にも反対の立場を取っていました。
最終的には、MS-DOSでもBTRONでも動くパソコンを作ることで合意しました。
潰されたTRON
日本国内では、小学校の教育用パソコンへTRONの導入が決まりかけていました。
アメリカからの圧力
そんな矢先、1989年にアメリカからスーパー301条に引っかかるとして圧力がかかりました。
1989年4月21にアメリカ合衆国通商代表部(USTR)が発行した、「外国貿易障壁報告書」にTRONが名指しで記載されました。
1980年代後半は、日本の経済力が急激に伸びた時期で、アメリカとの貿易摩擦問題が発生していました。
そうした時代背景での出来事でした。
TRONから手を引くメーカー
この動きにトロン協会は、USTRに対して文書による抗議を行いました。
その結果、1年ほどしてTRONは制裁対象から外れますが、メーカー100社近くがTRONから手を引きました。
厄介なゴタゴタに関わりたくなかったということでしょう。
結局、実際に学校教育で導入されたのは、PC-9801をはじめとするMS-DOS搭載のパソコンで、TRONは排除されてしまいました。
I-TRON:組み込みOSとしてのTRON
TRONがパソコンOSとして普及するチャンスは潰されてしまいました。
組み込み系OSとして生き残る
しかし、6つのプロジェクトの中で「I-TRON」は現在でも生き残って発展しています。
I-TRONは、「家電機器」「ロボット」などに組み込むコンピュータ用のOSでした。
I-TRONの仕様
現在のI-TRONには2つの仕様があります。
- 大規模組み込みシステム向け「ITRON2」
- 小規模組み込みシステム向け「μITRON」(マイクロアイトロン)
このうち、μITRONは省エネ・高速処理に優れ、様々な機器に採用されて搭載数世界一のOSに成長を遂げました。
世界標準へ
また、世界各国でリアルタイムOSの教科書として採用されておる!
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